京都市伏見区の御香宮(ごこうのみや)神社の能舞台で8月19日、近江猿楽多賀座による演舞奉納が行われた。
近江猿楽多賀座代表の山口正明さんによると、現代の能・狂言のルーツといわれる近江猿楽の中でも敏満寺(みまんじ)を拠点として活動していた「みまじ座」は最も古く、14世紀初めころから活動していたという。同座が歴史上の文献に初めて登場したのは、1418(応永25)年、伏見宮貞成親王(さだふさしんのう)が記した「看聞御記(かんもんぎょき)」で、同年9月に御香宮神社で「みまじ座が猿楽を演じた」記述が残っているという。
今回の公演について、山口さんは「多賀座は、近江猿楽発祥の地・滋賀県多賀町の地元有志が結成した猿楽団体。今年は『多賀座』が結成から25周年、『みまじ座』の演舞奉納から600年に当たる節目の年でもあるので、御香宮神社に奉納公演の提案をさせていただいた。馬屋原宏伏見区長や御香宮神社神能会など、多くの方のご協力で実現できて感慨深い」と振り返る。
当日は同神社で奉納祈願式を行った後、11時から同神社の能舞台で「小舞・七つ子」「狂言・口真似」「延年風流・王の舞」「延年風流・七頭舞」「延年風流・獅子舞」「延年風流・風流太鼓」を披露した。能舞台前には予定数を大幅に超える300人の観客が集まり、立ち見客も出るなどしてにぎわった。
伏見区内から来たという女性は「昔の芸能は自由で楽しかったのだろうなと思った。一緒に楽しめる素晴らしい奉納だった。600年前にこの神社で演じられた近江猿楽の『里帰り公演』に立ち会えて感激している。このような歴史や文化が残っている伏見を誇りに思う。伏見宮貞成親王が記したという『看聞御記』のことももっと知りたくなった」と話していた。