伏見や京都市内の高低差や凹凸を題材にした本「京都の凸凹を歩く(青幻舎刊)」が10月5日、「京都ガイド本大賞2016 リピーター賞」を受賞した。著者は梅林秀行さん。
京都ガイド本大賞は、京都の約200店の書店員が実際に中身を読んで投票して選ぶ賞で、大賞とリピーター賞がある。主催は京都府書店商業組合で、今回で3回目。「京都の凸凹を歩く」は伏見の「巨椋(おぐら)池」「指月城跡」「「淀城」や京都市内の「祇園」「聚楽第(じゅらくだい)」「大仏」「御土居(おどい)」など、高低差に隠された「土地の記憶」を感じながら街歩きできる本として、書店員の支持を集めた。
梅林さんは京都高低差崖会の会長を務めるなど、地形の高低差や凹凸研究の第一人者。京都のミニツアー「まいまい京都」のツアーガイドもしている。学生時代に考古学を学んだ経験から、「文章だけを読んでも理解できる」「図版を見るだけで理解できる」をモットーに、独自の図版を作製。その図版を活用したガイドが「分かりやすく面白い」と評判で、ツアー予約はすぐに完売するなど人気だ。
その実績を買われNHK「ブラタモリ」にもたびたび出演。今年の春に放映された「嵐山編」「伏見編」でも、ガイド役として登場した。
梅林さんは「この本は『京都の捉え直し』という位置付け。すなわち観光文化一色になっている京都は「和装」「懐石」など、あまりにも画一的で実際の京都とそぐわないことが多い。その対案として『観光文化ではない、非記号的な、そこに行けばリアルに感じられる京都』をテーマに書いた」と話す。
「例えば東山七条にある方広寺、豊国神社、京都国立博物館近辺には、かつて大仏があった。豊臣秀吉と秀頼が2代にわたって建てたその大仏は、現在の奈良の大仏をはるかに凌(しの)ぐ大きさだったが、1798年の落雷で消失した。大仏殿の遺構は現在でも残っており、当時のスケールの大きさを現地に行けばリアルに感じられる。もし大仏が今でも残っていたら、新幹線の車窓からも圧倒的に巨大スケールの大仏殿が見えたり、京都駅から参拝客の列が連なっていたりと、京都の観光動線は明らかに変わっていたはず。『現在とはちがった京都』への想像力を通して、京都の現状を相対化できる。そうすれば、もっと京都を自由に楽しめる」とも。
本の中で登場する伏見については「豊臣政権時代、伏見は『山の等高線を無視して道を通す』『巨椋池に堤を作って街道を通す』『宇治川の流れを変えて港を作る』など、大規模な土木工事によって町が生まれ変わった。当時、豊臣政権が与えたインパクトはとてつもなく大きかった。土木工事の痕跡は今でも残っている。地面に刻んだ地形を通して、当時の生活や人の姿をはっきりと見ることができる稀有(けう)な町」という。
続編の出版については「京都や大阪、奈良などで構想中。いずれは東京も取り上げたい。図版集も出版できたら楽しいと思う」と意気込む。