御香宮神社(京都市伏見区御香宮門前町)で2月4日、神幸祭で使われる獅々若(ししわか)の胴幕(獅子の蚊帳)が新調された。
この日、境内では業者から同神社禰宜(ねぎ)の三木善隆さんへの引き渡し式が行われ、木挽町(こびきちょう)青年団も立ち会った。
御香宮神社・神幸祭は「伏見祭」「花傘祭(はながさまつり)」ともいわれる地域最大の祭りで、毎年10月に行われる。最終日に行われる「みこし巡幸」「獅々若」は、江戸時代から続く行事で、町中を練り歩く伏見の名物となっている。
京都市無形民俗文化財にも指定されている神幸祭・獅々若は、61キロの雄と63キロの雌の大獅子頭をかぶって氏子地域を厄払いに巡行する。特に子どもは、この獅子に頭を咬(か)んでもらうと健康に過ごせると伝えられている。神幸祭に最も古くから参加している木挽町青年団が、1821(文政4)年から渡御の役割を任されている。
2015年に青年団の平塚団長が老朽化してきた蚊帳の歴史を調べていたところ、59年目だったことが判明。60年目を迎えた昨年から新調の準備を進めてきた。
平塚さんは「60年前に作ってもらった業者はすでに廃業しており、作ってもらう先を探すのに苦労した。なんとかしたいという気持ちでお声掛けしたのが、以前から法被(はっぴ)や手ぬぐいでお世話になっていた『マルケーオガワ』の小川眞平さん」と経緯を説明する。
小川さんによると、父親が御香宮神社の氏子の世話役をしていた縁で、木挽町青年団とは50年来のつきあいという。「着物の帯芯やさらしなどもめん製品の製造が本業。今回の依頼は全く初めての経験で戸惑いと困難の連続だった」と話す。
小川さんと息子の晃平さんが取り組んだのが染物店を探すことだった。「まず問題だったのが6メートル×2.1メートルという大きさ。京都中の染物店を探したが、ここまで大きい蚊帳を作ったことがある業者がなかった。最終的には全国の獅子の蚊帳を手掛ける染物店が引き受けてくれたが、この大きさが染色作業の場所と人の確保でも大きなネックになったと聞いている」とも。
蚊帳の染色は、まず糊筒(のりづつ)を使い文様を描いていき、それ以外の部分を刷毛(はけ)で染めて、水洗いしていく作業を繰り返す。見本で持ってきたこれまでの蚊帳は色あせており、本当の色がこれで合っているのかどうかも試行錯誤して進めたという。
小川さんは「生地の厚みに対して縫い込めるミシンのヘッドがなく、これも探すのに苦労した。ハンドバッグを作っている仕立屋のミシンなら縫い込めることが分かり、協力をしてもらった」と振り返る。
当初、2016年10月の神幸祭に間に合う予定で進めていたが、最終的には1月末に納品がずれ込んだ。「全てが初めてのことばかりで大変だったが、なんとか完成できてホッとしている。息子にとっても本当に素晴らしい経験になったはず。機会を与えていただき感謝している。60年後に作り直すときには、息子や孫がこの経験を生かしてくれると思う」と笑顔で話す。
平塚さんは「伏見の文化財を次世代に引き継げて大変うれしい。今年の神幸祭でお披露目するので、多くの方に獅々若に参加して祭りの楽しさを味わってほしい」と呼び掛ける。