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【特別対談】 競歩・山西利和さん×原田隆史さん「自分と向き合うことで、競歩道を極めて勝ち取った金メダル」 (連載特集1)

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京都府長岡京市出身の陸上競歩日本代表の山西利和選手が、世界選手権で2大会連続金メダルの偉業を達成した。伏見経済新聞では、2連覇達成に大きく寄与したと、メディアでも報道されている「原田メソッド」創設者の原田隆史さんと山西利和選手の対談形式のインタビュー記事を連載特集でお届けする。
目標達成のためのルーティンやトレーニングについてや競歩という競技の魅了とともに、原田メソッドについてお話を伺った。

世界選手権優勝おめでとうございます。

山西選手 ありがとうございます。皆様のサポートのおかげで優勝できて本当に感謝申し上げます。
東京五輪で負けを経験してからの1年間でしたので、やってきた事が形になったのはすごく嬉しかったと思います。東京五輪が終わってからパリ五輪に向けての最初の1年でしたので、いいスタートが切れたと思います。
ここからの来年、再来年がいよいよ本格的な勝負になっていくと思いますので、一層気を引き締めてチャレンジしていきたいと思います。
※東京五輪では銅メダルを獲得


見事、オレゴン世界陸上(米国)男子20キロ競歩で金メダルを獲得(※画像提供:山西和利さん)

では早速ですが、2連覇達成の大きな支えになったという「原田メソッド」についてお話をお聞きしたいと思います。まず原田メソッドの成り立ちからお願いします。
原田さん 奈良教育大学を出てすぐ、大阪市内の公立中学校の保健体育の教員になりました。生徒指導と言いますが、問題を抱えていた地域や子供たちを立て直すための専門職を20年やりました。
その最後の
35歳から42歳まで勤めた大阪市立松虫中学校で、陸上部の顧問になりました。

最初は「陸上競技で勝てばいいじゃないか」と結果や方法論ばかり見ていたのですが、「教員だから人を育てないといけないじゃないか」と。

人格の土台の上に、勉強・仕事・スポーツの能力を発揮できる人、つまり人間力のバランスのとれた人を育てることを学校教育の中で取り組んできたのが、原田メソッドの原型です。

―陸上部が素晴らしい結果を残したそうですね。
原田さん 結果、陸上部の子たちは日本一を13回達成する訳です。大阪500校で12連覇。12連続総合優勝させ、日本一の個人を育てました。難しいんですよ、総合と個人両方の同時優勝は。あと特筆すべきは男女ダブル優勝です。男女とも勝てて総合優勝できて、頑張る子が日本一になったいうことは、その教育が正しいことなんで脚光を浴びたのが42歳です。

―そこが原点で今に至る訳ですね

原田さん はい、ユニクロの柳井さんに注目いただいて、「ユニクロの社内教育やってほしい」という事で、そこで結果が出て独立をしました。そこから天理大学で教職員や先生を教える仕事をして起業したんですけども、ずっと流れが繋がってきて、学校教育活動から社会人教育、企業教育で世界25か国と地域で採用されています。

―今日は松虫中学時代の陸上部の教え子で、原田メソッドの講師としても活躍されている川阪正樹さんもお越しいただいているので、中学当時のお話をお聞かせください。
川阪さん 中学に入学しまして、陸上部に入部した日から日誌を書きました。僕たちにとって日誌というものを書くことは普通のことでしたので、「何故書かないといけないの?」などネガティブな発想もないですし、他の部も書いてるものだと思っていました。中学校3年間メンタルトレーニングを学んで、高校行ったときびっくりしたのが、「メンタルトレーニングしないの?」ということでした。

それを熱心にするのかしないのかといえば、フィジカル的に劣る自分としては、もう先生のミーティング内容とか今でいう講義ですね。それを朝の練習の後や放課後の練習の前とかミーティングがあったりするんですけれども、それをやることによって、体力的に劣る自分が結果成果に繋がったという経験から、手放せないツールになっていきました。

 

―ツールという言葉が出ましたが、原田メソッドの重要なツールの日誌を書く意味合いについて教えてください。
原田さん 教員なのでパフォーマンスを出させなないといけない。では結果を出そうと思ったら、二つの側面があるんですよ。一つの側面は、やり方・方法論。ITの時代なので最新の方法を取り入れてやる小手先のようなもの。言い方は悪いけど方法論で誤魔化そうというやり方。でもそればかりやって結果が出た人はいないんですよ。方法論というのは、いくら自分たちがやったところで、相手がいるので意味合いが分からないんです。相対的なものなんですね。

何のために陸上の練習3年間やるのか?「この子を自立する人に育てること」一番大事なんです。
目的はこの子の成長で、絶対的なもんなんですよ、自分を成長させるための練習や勉強で、ある意味修行なんですよ。

だから修行させて、人間を全体的に強くしないといくら相対的な方法論とか戦術があったとしても、こんなものは役立たない。世間は相対的な戦術論とか方法論の方ばっかり言って、自分の弱さを克服して強くするとかいうことと向き合うことをしないとダメで、それが教育の中に必要なんです。

僕らが言っているのは「求道」で、競技だと思っていないんです。つまり自身をどれだけ強くできるか?ということです。山西選手の場合は、「競歩道」ですね。オリンピックの金メダルという結果を求めるんだけど、ご自身が競歩という道の中で、自身と向き合ってどれだけ強くなれるか?ということを誰よりもやってきたから強くなれた。ご自身にベクトルを向けているから、僕らもお手伝いができる訳です。


つまり自分と向き合い強くするためのツールが日誌ということですね。
原田さん その通りです。修行者(道)の中に入っていって、中学のわずか3年間、たった1000日という短い時間の中で人間を変えるくらい教育をしようとすると何をするのかというと、日誌を書くということなんです。それは世の中のハイパフォーマーや修行者も同じなんですよ。

なぜ日誌を書くとかというと「1日の振り返り」です。その日を決算して明日に残さないこと、そして明日何をするというイメージトレーニングです。それを繰り返しして自分を強くする自己教育のための、自主ツールが日誌なんです。

それ以外にも、目標設定のためのツール「長期目標設定(ちょうもく)」や、頭の中にある潜在的なものを引っ張り出すオープンウインドウ64などのツールもありますが、基本は日誌なんですね。
自分と向き合うことをしないと、子どもも大人も成長しないですね。
(特別対談2に続く)

山西利和
京都府長岡京市出身。京都大学卒業
京都市立堀川高等学校進学後、競歩競技と出会い、京都大学在学中の2018年のジャカルタアジア大会で銀メダルを獲得。卒業後は愛知製鋼に入社し、2019年のカタール・ドーハ世界選手権の男子20キロ競歩で優勝。東京五輪代表に内定。2021年の東京五輪では銅メダルを獲得。2022年のオレゴン世界陸上では日本人選手初の2大会連続優勝を果たした。

原田隆史
大阪市生まれ。奈良教育大学卒業後、大阪市内の公立中学校に20年間勤務。保健体育指導、生徒指導に注力、問題を抱える教育現場を次々と立て直し、「生活指導の神様」と呼ばれる。
独自の育成手法「原田メソッド」により、勤務3校目の陸上競技部を7年間で13回の日本一に導く。

大阪市教職員退職後、大学講師を経て、2008年に起業。
「原田メソッド」に多くの企業経営者が注目し、武田薬品工業、三菱UFJ信託銀行、ユニクロ、カネボウ化粧品、神戸マツダ、住友生命保険、野村証券、キリンビール、損害保険ジャパン、高島屋、ジブラルタ生命、大阪ガス、パナソニックシステムデザイン、イーライリリー、横浜インターコンチネンタルホテルなどの企業研修・人材育成を歴任。
これまでに約500社、10万人のビジネスマンを指導した実績を持つ。
芸能人、プロアスリート、プロスポーツチームやオリンピック選手のコーチング・メンタルトレーニング指導もおこなう。
現在も、家庭教育・学校・企業の人材育成、講演・研修活動、テレビ出演、執筆活動など幅広い分野で活躍中。著書多数。

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